卍の意味~卍ちゃんというあだ名~

我が子のお話し

一時、いや、今も使うのでしょうか若い人達の間で「まじ卍!」という言葉が流行っていましたよね。我々、仏教関係の人間からいたしますと、何とも面白い響きだなと思っておりました。私が認識している「卍」というのはインド宗教における宗教的象徴で、日本の地図ではお寺を示す記号としても使用されています。インドのヒンドゥー教ではヴィシュヌという神様の胸にある胸毛のつむじの表現で、仏教ではお釈迦様の胸にある吉祥の印であり、仏の体に現れている身体的特徴のうち大きなものとして説明される三十二相の中にも数えられています。ですから、「まじ卍」なんて言われると、「仏の瑞相的な感じにすごくない!」って言っているのかな?なんて、くすくす笑ってしまいました。

さて、先日、仏の身体的特徴に関して開設した図を見ていましたら、「胸有万字」というのがありまして、つまり、胸に卍があるという意味です。それで、思い出した長女のエピソードを書き留めました。

私が学芸員を勤めております、総本山では、毎年3月の終わりに「少年少女宿泊研修会」というものを行っています。本山に所属する青年僧たち主催で、新小学3年生から新中学3年生までの子供たちが1泊2日で本山に宿泊し、寺内を探検したり、モノづくりを体験したり、修行僧の水行を見学したり、管長猊下のお話しを聞いたりと、普段できない体験をする会です。

私の長女は毎年、これを楽しみにしているのですが、この3月は残念なことに、新型コロナの影響で中止となりました。非常に残念がっていました。

長女は新3年生の時は、自坊(うちの主人の実家のお寺のことです。)の法要と重なり、参加できなかったので、新4年生の時から参加しています。この新4年生の時の宿泊研修会での出来事です。

この会には、高校生以上のお手伝いの方々が子供たちのお世話役についています。お寺の息子さんや娘さん達であったり、かつて研修会に参加したことがある高校生や大学生、大学院生などがその役を担っていることが多いです。私の主人は本山の職員ですから、主催の青年僧のグループとも顔見知りですし、お付き合いのあるお寺のご子息やお嬢さんもお手伝いに来ていました。そんなこともあって、長女はすぐにお寺の娘であると認識されたようです。その上、持ち前の性格を存分に発揮して、同じ保育園出身の友達を集めて大騒ぎ、目立ちに目立って、随分とお兄さん、お姉さんにかわいがられたようで、もう良い思い出しかないのです。

そして、その日、彼女には新たなあだ名が付いたそうです。これが「卍ちゃん」だったのです。長女にはあまり意味が分からなかったようですが、とにかく、お兄さん、お姉さん達に「卍ちゃん」「卍ちゃん」と呼ばれて可愛がられたので、きっと良い意味だと思って、素直に受け入れたようでした。

研修会が終わり、長女を迎えにいきましたら、なぜか、長女が高校生のお兄さんにおんぶされて出てきました。どの子も皆、自分で歩いているのにです。私は「またかよ…。」という感じで、とにかく、人たらしと言いますか、だれかれ構わず自分の親友にしてしまう謎の能力がありまして、(嫌われる時は、とことん嫌われますが、それについてはあまり気にしないタイプのようです。)特別、かわいがられたのでしょう。前日に初めて会ったであろう高校生の男の子に「もうバイバイだから、おんぶしてよ‼」みたいなことを気軽に言うわけです。で、言われた側もなぜか「こいつが言うのだから仕方ないか。」みたいな雰囲気になって、おんぶしてしまうわけです。

靴を履くのに一旦背中から降りまして、お世話をしてくれた高校生や大学生のお兄さん、お姉さん、それから、友達になった中学生、とにかく、あらゆる人に別れを惜しみ、わりと濃厚目なハグ。本当に「欧米か!」と突っ込んでやりたくなるような光景でした。それこそ、今考えますと、(こいつにソーシャルディスタンスとか言っても、本当無理よね…)と思います。一通り抱き着き終わると、また、もとに戻ってきて、先ほどおんぶをしてくれていたお兄さんにまた、「車まで、おんぶで行きたーい!」などと言い出しました。話しの流れで、その高校生が、自坊とお付き合いのあるお寺の息子さんであることが判明しまして、私は、「しなくていいです。調子に乗るので、しないでください。」と言ったのですが、とても良いお兄ちゃんで、「大丈夫です。車まで連れていきますよ。」とまた、快くおんぶしてくれまして、「あんたには足がないんかい!」と後ろから突っ込むことしかできませんでした。

さて、早めに迎えに行ったのに、長女の別れの儀式が長すぎで、大分時間が経っていました。やっと、車に乗り込んだと思い、エンジンをかけたとたんに長女が

「ねえ、『まんじ』ってどういう意味?」

と唐突に聞いてきたのです。「なんで?」と聞き返しますと、

「私、昨日からずっと“卍ちゃん”って呼ばれてたんやけど、意味わからへんし。」

とのことでした。私はずごく不思議に思って、

「インドの神様の胸毛の形で、仏様の胸にもあるありがたいマークのことだよ。」

と上記に書きましたような説明をしました。そうしますと、

「すごーい!! 私は仏様の胸毛ちゃんって呼ばれてたんや!!」

と大喜び。私は、仏様の胸毛とは言ってないのですが、色々混ざってそうなったようです。と言いますか、仏様の胸毛ちゃんって呼ばれたと言って喜ぶ子供も、そうとう珍しい気もいたしますが。とにかく、めちゃくちゃ満足げでした。私はその時、なぜ、そのようなあだ名が付いたかが不思議でならず、「どうして、そんな風に呼ばれたの?」と聞いたのです。すると、

「なんか、お姉さんが、私のこと、『めっちゃ面白くてかわいいな!マジ卍やわ!』みたいに言ったの、そしたら、それから卍ちゃんになった。」

と説明してくれました。この時、私は「まじ卍」という表現を、まだよく知らなかったのです。その後、テレビなどで時々、若者言葉として紹介されるのを目にし、やっと、長女にかけられた「まじ卍」という言葉の意味を知ったのです。つまり、我々世代にも通じる感じの言葉で言えば、「まじで、やばいんですけどー!」みたいな意味なんですよね。

ところが、長女は卍は“仏様の胸毛”だと思い込んでおりまして、その後、正解の意味を教えたのですが、「でも本当は“仏様の胸毛”のことなんやろ、その意味の方がすごいやん。」と言って、あまり受け入れてくれません。6年生になった今も、いまだに、謎に卍の意味を譲りません。(そもそもで言えば、長女の認識している意味の方が正解なわけですが…。)しかし、まあ、こういうところも含めて“卍ちゃん”なわけだろうなあ、と思ったりするのです。

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